インバウンド対応と臭い対策〜ホテル業界を悩ませる「臭い」問題とオゾン消臭の法的側面〜
はじめに:多様化するゲストと「臭い」の課題
近年、日本を訪れるインバウンド観光客は増加の一途を辿り、ホテル業界は活況を呈しています。しかし、多様な国籍や文化を持つゲストを迎える中で、ホテルが直面する新たな、かつ根深い課題の一つが「臭い」の問題です。香水、体臭、喫煙、持ち込み飲食、調理による臭いなど、その種類は多岐にわたり、次のゲストに不快感を与え、ホテルの評価に直結しかねません。特に、インターネット上の口コミが大きな影響力を持つ現代において、臭いはリピート率や稼働率を左右する重要な要素となっています。
このような状況下で、強力な消臭効果が期待できる「オゾン消臭」が注目されていますが、その使用には注意が必要です。本コラムでは、ホテル業界が取り組むべき臭い対策と、オゾン消臭に関する法規制について詳しく解説します。
ホテル業界における臭い対策の現状と課題
ホテル客室の臭いは、単に不快なだけでなく、顧客満足度を著しく低下させる要因となります。主な臭いの発生源と対策は以下の通りです。

タバコ臭:
最も一般的な問題の一つです。禁煙ルームと喫煙ルームの厳格な分離、喫煙ブースの設置、強力な脱臭対策が必須です。
体臭・香水臭:
国籍や文化によって体臭への感覚は異なり、香水も人によっては不快に感じることがあります。
飲食による臭い:
持ち込み食品や部屋での調理(簡易的なものを含む)による臭いは、客室の清掃だけでは取り除きにくいことがあります。
カビ臭・下水臭:
設備の老朽化や換気不良が原因で発生し、根本的な解決が必要です。
清掃薬剤の臭い:
消臭対策として使用する薬剤自体が、別の不快な臭いとなるケースもあります。
これらの臭いに対し、ホテルでは以下のような対策が講じられています。
徹底した換気:
チェックアウト後の客室の窓開け(可能な場合)や換気扇のフル稼働は基本中の基本です。
清掃の徹底:
リネン類の交換、絨毯やカーテンの洗浄、エアコンフィルターの清掃など、臭いの元となる部分を物理的に除去します。
消臭剤・脱臭剤の活用:
市販の消臭スプレーや置き型脱臭剤、光触媒コーティングなども用いられます。
脱臭機の導入:
根本的な解決策として、脱臭機(特にオゾン発生器)を導入するケースが増えています。
オゾン消臭の仕組みと効果
オゾン(O3)は、強力な酸化力を持つ気体です。この酸化力により、臭いの原因物質を分解し、無臭化する効果があります。また、ウイルスや細菌の不活化にも効果があるとされ、除菌目的で利用されることもあります。短時間で広範囲の消臭が可能であるため、客室の回転率を重視するホテル業界で特に重宝されています。
メリット
- 強力な酸化力で臭いを根本から分解
- 短時間での消臭が可能
- カビ、細菌、ウイルス対策にも有効
- 薬剤を使用しないため、残留物が少ない
デメリット
- 高濃度では人体に有害
- 使用中は無人にする必要がある
- 使用後の十分な換気が必須
- ゴムや樹脂などを劣化させる可能性
オゾン消臭と日本の法令・安全基準
オゾンは強力な酸化作用を持つがゆえに、人体への影響も無視できません。そのため、オゾン発生器の使用には、特に作業者の安全確保の観点から、国が定める法令や基準を遵守する必要があります。
労働安全衛生法関連の規制(2025年10月1日施行)
2025年10月1日より、労働安全衛生法に基づく化学物質管理が強化され、オゾンも規制対象となります。これにより、ホテルなどの事業者は、オゾン消臭作業を行う際に以下の対応が義務付けられます。
化学物質管理者の選任:
オゾンの濃度管理や安全な使用方法に関する専門知識を持つ担当者を配置する必要があります。
保護具着用管理責任者の選任:
防毒マスクなどの呼吸用保護具を使用する場合、その管理責任者を配置する必要があります。
オゾン濃度の測定と記録管理:
作業エリアのオゾン濃度を定期的に測定し、規定値(後述)を超えないように管理・記録することが求められます。
安全教育・換気設備の整備:
作業者への安全教育の徹底、適切な換気設備の設置と運用が義務付けられます。
オゾン濃度の安全基準
日本産業衛生学会が定める作業環境基準では、有人環境におけるオゾンの許容濃度を0.1ppm(0.2 mg/m3)と定めています。これは、労働者が1日8時間、週40時間程度の労働強度で継続的に曝露された場合でも、ほとんどの労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される濃度です。
ホテルでの客室消臭のように、高濃度のオゾンを短時間で発生させる場合は、作業中は必ず無人とし、作業後には十分な換気を行い、残存オゾン濃度を0.1ppm以下にすることが求められます。近年では、消臭作業後に残存オゾンを分解する機能を搭載したオゾン発生器も登場しています。
旅館業法における換気の規定
直接オゾン消臭を規制するものではありませんが、旅館業法では衛生管理の一環として、宿泊施設に「適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること」と規定しています(旅館業法施行令第三条)。また、各自治体の条例で詳細な換気基準が定められている場合もあります。オゾン消臭後の換気は、この旅館業法の換気基準を満たすためにも不可欠な要素です。
建築物衛生法(ビル管理法)
特定建築物(床面積3,000㎡以上など)に該当するホテルでは、建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)が適用されます。この法律では、室内の空気環境基準として、CO2濃度や浮遊粉じん濃度、ホルムアルデヒド濃度などが定められていますが、直接的に臭気に関する具体的な数値基準はありません。ただし、「臭気が異常でないこと」という項目があり、不快な臭気がない状態を維持することが求められています。オゾン消臭は、この「臭気」の改善に寄与するものです。
まとめ:安全で快適なホテル環境のために
インバウンド需要の高まりとともに、ホテル業界における臭い対策は、もはや単なる清掃の一環ではなく、顧客満足度とホテルのブランドイメージを左右する経営課題となっています。オゾン消臭はその強力な効果から有効な手段の一つですが、その安全性と法規制への理解が不可欠です。
特に2025年10月からの労働安全衛生法の改正は、ホテル業界においてオゾン消臭の運用体制の見直しを迫るものとなります。単に機器を導入するだけでなく、専門知識を持つ管理者の配置、作業手順の徹底、定期的な濃度測定、十分な換気といった総合的な安全管理体制を構築することが求められます。
ゲストに最高の「おもてなし」と「安心・快適」な滞在を提供するためには、目に見えない「臭い」への配慮と、それを支える適切な法規制遵守、そして安全な運用体制が不可欠です。
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